DV加害男性の手記 はじめに
DV加害男性の手記 はじめに
今日ほどDVが、男性自身にとって、自分の危機的な問題として自覚されていなかった頃、1998年12月19日、朝日新聞。DVに関連した連載記事『夫婦間暴力――出口を求めて』に対するDV男からの投書が取り上げられました。
「男性から」という見出しの囲み記事で、「自己嫌悪で自分殴った」会社員が紹介されていたのです。(このブログの最後に掲載しました。)
新聞掲載後、新聞社を経由して、その会社員に対してある放送制作会社から取材の申し込みがありました。会社員の手許に、制作会社Kさんから次のような丁寧な依頼状が届いたのです。
<依頼状1>
拝啓、初めてご連絡させて頂きます。
A新聞社のBさんよりご紹介頂きました、C社のKと申します。弊社では、現在テレビAの依頼を受け、「Nステーション」の特集で「夫からの暴力」をテーマにドキュメンタリー番組を制作しております。
これは、最近、相談窓口への訴える女性が増え、離婚調停を申し立てる女性の3分の1が夫からの暴力を理由に上げています。こうした暴力の現状を取り上げ、夫は何故妻を殴るのかを徹底究明し、解決策を探っていく番組です。
既婚男性にアンケートをとり、出来るだけ多くの男性の気持ちを伝えてゆきたいと思っております。そこで、A新聞の「夫婦間暴力」の記事を拝見し、是非お話をお伺いしたいと思いました。
妻に暴力を振るっていた時の感情、原因、カウンセリングを受けたきっかけ、どうやって自分が変わっていったのかなど、経験談を聞かせて頂ければと思います。
つきましては、お忙しいとは存じますが、一度会って頂けませんでしょうか。日にちなどはご都合にお任せいたします。是非、ご協力をお願いいたします。
敬具
会社員は、その取材に応じるか否か、DV加害を打ち明けたことのある、ごく親しい男友達に相談したのだそうです。友人はマスコミ業界にも詳しく、新聞記事をきっかけに取材に応じた結果、今度は週刊誌で取り上げられるようになり、その結果、時に取材を受けた側が傷つくこともある、と言うのでした。そこで会社員は、取材をお断りする旨の返事をしました。
数ヵ月後、再度、取材の申し込みがあった。「話だけでも・・・」というのです。
<依頼状2>
拝啓、先日は、突然の連絡にも関わらず、お返事を頂きましてありがとうございました。一月の終わりにお葉書を頂いてから、色々と考え、もう一度A新聞のB様に手紙を転送して頂くことにしました。
頂いたアドバイスを元に、女性センターのカウンセラーの方々に色々お聞きしたのですが、結局、男性でカウンセリングを受けている方は少なく(殆どのセンターではいないと言われてしまいました)、男性の意見が聞けないまま、時間が過ぎています。
多くの男性に意見を求めるため、街頭でアンケートを配ったのですが、貴方様のように「暴力」と闘ったという人は現れませんでした。
私どもが、何故男性の意見を聞きたいのかと申しますと、この問題での解決方法が現在「離婚」という形でしかないからです。実際、家庭裁判所の調停申し立ての理由を見ますと、暴力が第二位という結果になっています。一番側らに居て欲しい人に暴力を振るわれ、その理由がわからないまま、恐ろしさのあまり離婚を決意する女性が多いのです。
私が、今までお会いした女性の話を聞くと、「暴力さえなければ・・・」と殆どの方が答えて下さいました。では、他に解決方法はないのでしょうか?
多分、その解決方法の一つが貴方様のとられた行動にあると思うのです。
頂戴したお葉書の中では、「特集番組のわずかな時間では、私のことも十分に扱われないと思う」とかかれており、実際のところ時間のことを言われると、身も蓋もありません。しかし、貴方様の気持ちを十分に伝えることはできると思っております。そして、番組を見ている女性の支えとなり、男性の気づきに繋がると思うのです。もし、それが無理のようでしたら、貴方様の気持ちを手紙で教えていただけませんでしょうか。
お忙しい中、大変ご迷惑おかけしますが、何卒宜しくお願い申し上げます。
敬具
その当時、まだ、DV加害者への脱暴力の支援事例はすくなく、DV加害から回復した事例は希少だと、されていました。
――DV男の暴力加害からの回復を願い、脱暴力の努力を続けていらっしゃる方々に、この会社員の脱暴力の軌跡、それは「奇跡」の記録かもしれませんが、ご自分にも「奇跡」を起こす力があるかも知れないと、そんな希望を抱いて、脱暴力の地道な努力を、ひたむきな姿をキープしていく一助になればと思い、会社員さんの理解を得て、ご紹介いたします。
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